ティール組織(フレデリック・ラルー)

  • 現代のビジネスのやり方は、地球の許容範囲を超えてしまった。現代の組織は、とてつもない勢いで天然資源を枯渇させ、エコシステムを破壊し、気候を変え、貴重な地下水と表土を使い果たした。人類は将来世代との「瀬戸際政策」ゲームをしているのだ。将来は科学技術が発達して癒してくれるだろう、という考えに賭けて、この地球を傷つけてきた。
  • 経済的には、限られた経営資源で成長を続けるというモデルは、必ず壁にぶつかることになっている。最近の金融危機は、やがて来る大地震の前触れにすぎないのかもしれない。多くの種やエコシステム、そして人類自身は生き残れるのだろうか?それは私たちが自分自身の意識を高められるかどうか、そしてこの世界との間に新しい関係を築き、この世界に与えてきた損害を癒やせるかどうかにかかっている。
  • 現代の職場であまりにもよく目にするような、病的な状態から解放された組織をつくることはできるのだろうか?政治も官僚主義も、内部抗争も皆無で、ストレスや脱力感、あきらめも怒りも無関心もなく、トップでふんぞり返る者も、底辺で単純作業に苦しむ者もいないなどという職場はあり得るのか?仕事が生産的で、充実して、意義深い新たなモデルをつくり直すことは可能なのだろうか?人々の才能が花開き、何かをしたいという強い気持ちが尊重される、そうした情熱的な職場を、学校でも病院でも、企業、非営利組織でもつくれるのか?
  • 順応型(アンバー)組織:「正式な役職、固定的な階層、組織図によって、権力の安定がもたらされている。組織全体は堅固なピラミッド構造で、上位下達式の命令系統が正式に採用されている。」「計画立案と業務の執行は役割が厳格に分けられている。トップが考え、底辺の者たちが実行するのだ。トップの決定事項が指揮命令系統を通じて下達される。」「その根底にある考え方は、労働者はほとんどが怠け者で、不正直で、つねに指示を待っている存在であり、常に監視され、指導を受けるべき存在だ、ということである。」「何よりも重要なのは、社会的な帰属意識だ。」「集団内の争いを避けるため、問題や間違いがあると、責任はたいがい外部に押し付けられる。」「雇用は終身雇用が当たり前で、・・・もしクビにされると、仕事が与えてくれる自らの存在証明と、自分が組み込まれている社会機構のいずれも失うため、従業員にとって二重の意味での脅威となる。」
  • 達成型(オレンジ)組織:「達成型組織を具現化したのが現代のグローバル企業」「業績面で比較すると、・・・完全に次元の違う規模を実現した。それを可能にした三つの突破口は、イノベーション、説明責任、実力主義だ。」「達成型の求めるリーダーシップは、たいていは目標重視型で、目に見える問題を解決することに集中し、人間関係よりも業務遂行を優先させる。公平無私な合理性に価値を置き、感情に流されないよう用心し、意味や目的を疑問視することになじめない。」「達成型パラダイムの影の一つが『イノベーションの行き過ぎ』だ。基本的欲求の大半が満たされると、企業は次第にニーズを作り出そうとし、私たちが本当には必要としていないもの(所有物、最新のファッション、若々しい肉体)が増えるほど幸せになてるという幻想を人々の間に膨らませようとする。でっちあげられたニーズに基づくこうした経済の多くが、金融的にも生態学的にも接続できないことが、次第に明らかとなり、成長のために成長を求めるという段階に来てしまった。」「少数の最高経営責任者(CEO)が自らの報酬を引き上げ、自分たちに有利なルールを作らせようとロビー活動に精を出し、税金の支払いを極力逃れようと各国の政府に働きかけ、がむしゃらに業界を支配しようとし、取引先や顧客、従業員に対して権力を乱用するのだ。」
  • 多元型(グリーン)組織:「達成型組織の実力組織に基づく階層構造を残しているのだが、意思決定の大半を最前線の社員にまかせている。」「トップとミドルのマネジャー層は権力を事実上分け合い、一定の統制力をあきらめることが求められる。」「マネジャーは360度フィードバックに基づいて評価される。」「強烈な文化が共有されていないと、権限移譲を前提とした組織をまとめるのは難しい。現場の最前線にいる社員が、がんじがらめのルールではなく、組織で共有されているさまざまな価値観に包まれて、正しい判断をする者として信頼される。」「多元型組織で最も重要なのは、その会社の文化だ。多元型組織のCEOは、企業文化と共有価値を育てて守ることが、最も重要な仕事だと述べる。」「企業は投資家だけに責任を負うのではなく、経営者、従業員、顧客、サプライヤー、地域社会、社会全体、そして環境に対する責任も負っている。リーダーの役割は、相反するさまざまな条件を調整してすべてのステークホルダーを幸福にすることだととらえる。」

 

  • 自分のエゴを一定の距離を置いて眺めると、その恐れ、野心、願望がいかに自分の人生を突き動かしているかが見えてくる。支配したい、自分を好ましく見せたい、周囲になじみたいといった欲求を最小化する術を得る。
  • 恐れに置き換わるものは何だろう?人生の豊かさを信頼する能力だ。私たちに古くから伝わるさまざまな知恵は、生き方の本質は二通りあるという深遠な心理を前提にしている。それは、「恐れと欠乏感にまみれた人生か、信頼と潤沢に満ちた人生か」というものだ。
  • 進化型では、意思決定の基準が外的なものから内的なものへと移行する。自分の内面に照らして正しいかどうか、つまり「この判断は正しそうか?」「私は自分に正直になっているか?」「自分がなりたいと思っている理想の人物は同じように考えるだろうか?」「私はこの世界の役に立っているのだろうか?」を重視する。
  • 自分が何者で、人生の目的は何か、という内省に駆り立てられる。人生の究極の目的は成功したり愛されたりすることではなく、自分自身の本当の姿を表現し、本当に自分らしい自分になるまで生き、生まれながら持っている才能や使命感を尊重し、人類やこの世界の役に立つことなのだ。
  • 進化型パラダイムでは、判断と寛容という対立を超越できる。・・・あるいは寛容という名の下に(これは多元型組織では理想的な態度であるが)、意見の違いをうまく取り繕って、すべての真実は等しく価値があることを認める。進化型パラダイムでは、この対立性を超越し、きめつけないことでより高次の真実にたどりつける。
  • 進化型パラダイムに従う人々は自分の人生の使命を探すことに忙しいので、明確で崇高な目的を持った組織のみが密接な関係を築きやすい。収益性や成長、市場シェアよりも存在目的が組織の意思決定を導く原則になるだろう。進化型パラダイムとは全体性とコミュニティーを目指して努力し、職場では自分らしさを失うことなく、しかし人と人との関係を大事に育てることに深くかかわっていくような人々を支える組織なのだ。
  • 自主経営(セルフマネジメント):大組織にあっても、階層やコンセンサスに頼ることなく、仲間との関係性のなかで動くシステムである。
  • 全体性(ホールネス):私たちの精神的な全体性があらためて呼び起こされ、自分をさらけ出して職場に来ようという気にさせるような一貫した慣行を実践している。
  • 存在意識:組織のメンバーは、将来を予言し、統制しようとするのではなく、組織が将来どうなりたいのか、どのような目的を達成したいのかに耳を傾け、理解する場に招かれる。

 

  • 将来は経済成長のない社会になるという概念・・・社会(と、したがって進化型組織)は、廃棄物も毒性もなく、100%再生可能な循環型(クローズド・ループ)経済という、理想に近い状態で活動しなければならないだろう。
  • 進化型社会では、ある産業自体が消えてなくなり、人類の経済活動が地球にかける負荷であるエコロジカル・フットプリントが減るだろう。そのうえで、私たちの身体面、感情面、精神面の健康を高めようとする「顧客との人間的なつながり」に訴求するサービスが成長するだろう。
  • 自然が数億円をかけて築き上げてきたエネルギー備蓄を、私たちはわずか200年ですっかり使い果たそうとしている。・・・その場合、経済活動と食糧生産は再び現地化するだろう。というのも、輸送するだけの余裕がなくなるだろうし、肉体労働が再び幅広い規模で必要になるはずだからだ。・・・奇妙な矛盾ではあるが、将来の社会は、現在よりもローカルであり、かつグローバルでもある状態が同時に実現する可能性もあるのだ。
  • 社会は新たな局面に入ろうとしているのかもしれない。必要な労働者の数がどんどん減っていく社会の到来だ。・・・これまでは、人類の大半が生活のためにたいして面白くもない仕事に就かざるを得なかった。人類史上初めて、幸せな一握りの人々だけでなく、だれもが自分の使命感に従って、創造的に自己表現する人生を自由に選べる時代を予期できるようになったのだ。