第三次世界大戦はもう始まっている(エマニュエル・トッド)

  • 冷戦後、NATOは東方に拡大・・・ポーランドハンガリーチェコが加盟した1999年と、ルーマニアブルガリアスロバキアスロベニアエストニアラトビアリトアニアが加盟した2004年です。
  • ドイツ統一が決まった1990年の時点で、「NATOは東方に拡大しない」といった”約束”がソ連に対してなされていたが、にもかかわらず、ロシアは不快感を示しながら二度にわたるNATOの東方拡大を受け入れたのです。
  • 2008年4月のブカレストでのNATO首脳会議で、「ジョージアウクライナを将来的にNATOに組み込む」ことが宣言されました。
  • ロシアにとって超えてはならないレッドライン
  • 2014年2月22日、ウクライナで、「ユーロマイダン革命」と呼ばれる「クーデタ」———民主主義的手続きによらずに親EU派によってヤヌコビッチ政権が倒される―――が発生しました。これを受けて、ロシアはクリミアを編入し、親露派が東部ドンバス地方を実効支配しましたが、それは住民の大部分が、この「クーデタ」を認めなかったからです。
  • アメリカとイギリスが、高性能の兵器を大量に送り、軍事顧問団も派遣して、ウクライナを「武装化」していたからです。「ウクライナをすぐにNATOの一部にするとは誰も言っていない」というレトリックを用いながら、ウクライナを「武装化」し、”事実上”NATOに組み入れていたわけです。
  • ロシアが看過できなかったのは、この「武装化」がクリミアとドンバス地方の奪還を目指すものだったからです。
  • つまり、軍事上、今回のロシアの侵攻の目的は、何よりも日増しに強くなるウクライナ軍を手遅れになる前に破壊することにあったわけです。
  • マリウポリの街が”見せしめ”のように攻撃されているのには理由があります。・・・ネオナチの極右勢力「アゾフ大隊」の発祥地だからです。ロシアが言っていることに我々は耳を傾けなければなりません。「非ナチ化」とは、このアゾフ大隊を叩き潰すという意味です。
  • 「広義のロシア」すなわち「スラブ」の核心部は、ロシア(大ロシア)、ベラルーシ白ロシア)、ウクライナ(小ロシア)からなりますが、ベラルーシウクライナの分離独立、すなわち「広義のロシア」の核心部が分裂することまで受け入れたのです。ちなみにソ連邦が成立した1922年以前に、ウクライナも、ベラルーシも「国家」として存在したことは一度もありません。
  • 冷戦後のロシアは、「西側との共存」を目指しました。けれどもロシア人はすぐに裏切られたのです。・・・ロシアの経済と国家を破綻させただけでした。
  • さらにアメリカは「NATOは東方に拡大しない」と言っていたのに、・・・結局、ロシアを軍事的にも囲い込んでしまいました。
  • アメリカの目的は、ウクライナNATOの事実上の加盟国とし、ロシアをアメリカには対抗できない従属的な地位に追いやることでした。それに対してロシアの目的は、アメリカの目論見を阻止し、アメリカに対抗しうる大国としての地位を維持することでした。
  • ロシアは人口規模は日本と同程度・・・今の状況は、「強いロシアが弱いウクライナを攻撃している」と見ることができますが、地政学的により大きく捉えれば、「弱いロシアが強いアメリカを攻撃している」と見ることもできます。
  • アメリカは、第二次世界大戦後も、常に戦争をしてきた国です。・・・ヨーロッパ人と違って、アメリカ人にとっては、「他国を侵略することも普通のことだ」と考える基盤があるのです。・・・アフガニスタンにしろ、イラクにしろ、シリアにしろ、アメリカがこれまで行ってきた戦争は、弱小国に対する戦争でした。それに対して、今回、大国のロシアが、事実上、アメリカを敵に回しているわけです。
  • アメリカの専売特許」だった他国への侵攻をロシアが行った
  • ロシアは「共同体家族」(結婚後も親と同居、親子関係は権威主義的、兄弟関係は平等)の社会で、ウクライナは「核家族」(結婚後は親から独立)の社会です。
  • ロシア・・・平等概念を重んじる秩序だった権威主義的な社会で、集団行動を得意とします。こうした文化が共産主義を受け入れ、現在のプーチン大統領が率いる「ロシアの権威的民主主義」の土台となっているわけです。
  • 西側メディアが「戦争を引き起こした狂った独裁者」としてプーチン一人を名指しして糾弾するのは端的に言えば間違っています。・・・ロシア社会自身が、彼のような権威主義的な指導者を求めているからです。
  • 問題は、ウクライナに「国家」が存在しないことです。ウクライナ核家族構造が生み出したのは、「民主主義国」ではなく「無政府状態」だったのです。
  • 「西部」に、リヴィウを含む地域・・・ロシアからは、”ほぼポーランド”とみなされている地域・・・キエフ(キーウ)・・・「中部」には、「小ロシア」と呼ばれる地域が広がっています。ここが言わば”真のウクライナ”で、核家族構造が見られます。・・・黒海沿岸地域とドンバス地方からなる「南部・東部」は、プーチンが歴史に倣って「ノヴォロシア(新ロシア)」と呼んでいる地域です。・・・三つの地域はあまりに異なっており、ソ連が成立するまで、「ウクライナ」は、「国家」として存在していなかったのです。
  • 予測可能な国と予測不能な国・・・ロシアは一定の戦略的合理性に基づいて行動しています。・・・予測不能な国は、まずウクライナです。・・・軍事力や人口規模から見て、非合理的で無謀な試みだと言わざるを得ません。そもそも、この国は軍が仕切っているのか、大統領が率いているのか、分からないところがあります。

 

  • この戦争は、「ウクライナの中立化」という当初からのロシアの要請を西側が受け入れていれば、容易に避けることができた戦争でした。
  • ロシアは、戦争前にすでに安定に向かっていました。自国の国境保全に関してロシアを安心させていれば、何事も起こらなかったはずです。
  • 本来なら避けられたはずの戦争が始まってしまい、ウクライナの市民が虐殺される事態に陥っているのは、あまりに不条理です。

ESG超入門(バウンド)

  • 日本企業の多くは、「オールド資本主義(短期思考経営)」の立ち位置。「脱資本主義」は「利益が減っても環境・社会に貢献すべき(環境アクティビスト・社会主義/共産主義)。
  • 「ニュー資本主義」は、「社会・環境に対するアクションをしながら、利益の追求を目指す」。ESG投資/ESG経営。サステナブル経営。長期思考経営
  • SDGsは、国連が2030年までに持続可能な社会を実現するために達成を目指す全世界共通の17の「目標」です。
  • ESGは、環境、社会、ガバナンスという3つの非財務的な観点が企業の長期的な成長に影響するという考え方。
  • CSR(企業の社会的責任:corporate social responsibility)
  • CSV(共有価値の創造:creating shared value
  • 大量生産、大量消費、大量廃棄の直線的(リニア)にモノが流れる「リニア・エコノミー)
  • 資源を取り出し、生産、消費したあとにその資源を再利用して円を描くように循環(サーキュラー:circular)させ、資源やエネルギーの消費、廃棄物の発生を少なくすると同時に、その循環の過程でも価値を生み出すことで、経済成長と環境負荷の低減の両立を目指す「サーキュラー・エコノミー(CE:循環経済)」への転換が求められています。
  • 2006年国連事務総長コフィー・アナン氏:責任投資原則(PRI:principles for  responsible investment)・・・短期的な利益優先で乱開発する企業や途上国の労働者から搾取する企業ではなく、ESGの観点を踏まえた長期的な利益創出を狙う企業への投資を促した。
  • ESG投資とは、環境・社会・ガバナンスに取り組む企業を重視・選別する投資
  • ESG投資は財務情報に加え、温室効果ガス排出量や顧客満足度、女性管理職比率といった「非財務情報」を重視
  • ダイインベストメント(投資撤退)
  • マテリアル・リサイクル / ケミカル・リサイクル / サーマル・リサイクル サーマル・リサイクル(日本では7割以上)は世界標準ではリサイクルと見なされていない。
  • ハード・ローとソフト・ロー
  • 企業がESG課題の解決に貢献すること=「利益」になるように経済合理性をもたらした。
  • デファクト・スタンダード(de facto standard)とデジュール・スタンダード(de jure standard)
  • グリーンウォッシュ、ブルーウォッシュ、SDGsウォッシュ
  • 2014年日本版「スチュワードシップ・コード)、2015年「コーポレート・ガバナンス・コード」
  • SASBスタンダード(サズビー)
  • TCFD(taskforce on climate-related financial disclosure)提言
  • エシカル(倫理的)消費
  • バックキャスティングとフォアキャスティング
  • アウトサイド・イン / インサイド・アウト / マーケット・イン
  • KPI(主要業績評価指標:key performance indicator)

実力も運のうち 能力主義は正義か?(マイケル・サンデル)

  • 労働の尊厳はむしばまれ、多くの人がエリートに見下されていると感じるようになってしまったのだ。グローバリゼーションの勝者は自力で勝ち取ったのだからそれに値するという信念は、正当なものだろうか。それとも、能力主義に基づく思い上がりだろうか。エリートに対する怒りが民主主義を崖っぷちに追いやっている時代・・・選別や競争を超えた共通善を追求することなのかを問う必要がある。
  • この数十年にわたるう労働者の経済的・文化的地位の低下は、・・・・主流派の政党とエリートによる統治手法の帰結なのだ。
  • 能力や「値する」といった言葉が公的言説の中心を占めるようになってきた。・・・社会保障制度を抑制し、リスクを政府や企業から個人へ移そうという試みがなされてきた。・・・出世のレトリックとでも言うべきもの、つまり、懸命に努力し、ルールに従って行動する人々は、才能と夢が許すかぎりの出世に値するという保障である。
  • 1980年代以降、社会保障制度をめぐる論争は、連帯よりも、恵まれない人びとは自らの不幸にどこまで責任があるかという点をテーマとするようになった。・・・コミュニティが手を差し伸べるのは、その人の不幸が本人の落ち度ではない場合に限られる。
  • われわれは自分の運命に責任を負っており、自分の手にするものに値する存在だというメッセージを繰り返すことは、連帯をむしばみ、グローバリゼーションに取り残された人びとの自信を失わせる。第二に、大卒の学位は立派な仕事やまともな暮らしへの主要ルートだと強調することは、学歴偏重の偏見を生み出す。それは労働の尊厳を傷つけ、大学へ行かなかった人びとをおとしめる。
  • 労働者階級の不満に真剣に立ち向かおうとするなら、公共文化に浸透したエリートによる蔑視や学歴偏重の偏見と闘わなくてはならない。また、労働の尊厳を政治課題の中心に据えるべきだ。
  • 社会が労働に名誉と報いをどう与えるかは、共通善をどう定義するかという問題の核心だ。
  • ロバート・F・ケネディは、・・・失業の痛みは、たんに失職により収入を絶たれることではなく、共通善に貢献する機会を奪われることだ。「失業とは、やることがないということーそれは、ほかの人たちと何の関係も持たないということです。」
  • 現代のリベラル派は、労働者階級と中産階級有権者に、分配的正義を増すことを提案してきた。つまり、経済成長の果実をもっと公平に、もっと十分に手に入れられるようにすることを提案したのだ。しかし、有権者がそれより欲しがっているのは、より大きな貢献的正義ー他人が必要とし重んじるものをつくり出すことに伴う社会的な承認と評価を得る機会なのである。
  • 金融は、いかに好調であっても、それ自体は生産的でない。金融の役割は社会的に有用な目的——新しい企業、工場、道路、空港、学校、病院、住宅など――に資本を割り当てて経済活動を円滑にすることだ。ところが、・・・経済をより生産的にする働きは何もしていない。・・・・金融活動は、経済価値をもたらすのではなく、実体経済からレント(正当化されない超過利潤)を搾り取っている可能性がある。
  • なぜ資本利得による所得にかかる税率が労働所得のそれよりも低いのか?
  • 給与税の一部あるいは全部を金融取引税で置き換える――実質的には、実体経済にとって無益な賭博めいた投機に「悪行税」を課す――という私の提案・・・
  • 多様な職業や地位の市民が共通の空間や公共の場で出会うことは必要だ。なぜなら、それが互いについて折り合いをつけ、差異を受容することを学ぶ方法だからだ。また、共通善を尊重することを知る方法でもある。
  • われわれはどれほど頑張ったにしても、自分だけの力で身を立て、生きているのではないこと、・・・自分の運命が偶然の産物であることを身にしみて感じれば、ある種の謙虚さが生まれ、・・・・われわれを分断する冷酷な成功の倫理から引き返すきっかけとなる。能力の専制を超えて、怨嗟の少ない、より寛容な公共生活へ向かわせてくれるのだ。

人生百年の教養(亀山郁夫)

  • 「人間というのは生きられるものなのだ!人間はどんなことにでも慣れることのできる存在だ。私はこれが人間のもっとも適切な定義だと思う」この定義を是とするか、非とするか、それは、私たち自身の生のありようと密接にかかわっています。ドストエフスキーの場合、「そんなことにでも慣れることのできる存在」とは、あくまでも、「どんな苦しみにも慣れることのできる存在」つまり、苦しみを受ける立場から生まれた言葉でした。

ワーニャ伯父さん(チェーホフ 神西清〔訳〕)

  • でも、仕方がないわ、生きていかなければ!ね、ワーニャ伯父さん、生きていきましょうよ。長い、はてしないその日その日を、いつ明けるとも知れない夜また夜を、じっと生き通していきましょうね。運命がわたしたちにくだす試みを、辛抱づよく、じっとこらえて行きましょうね。今のうちも、やがて年をとってからも、片時も休まずに、人のために働きましょうね。そして、やがてその時が来たら、素直に死んで行きましょうね。あの世へ行ったら、どんなに私たちが苦しかったか、どんなに涙を流したか、どんなにつらい一生を送って来たか、それを残らず申し上げましょうね。すると神さまは、まあ気の毒に、と思ってくださる。その時こそ伯父さん、ねえ伯父さん、あなたにも私にも、明るい、すばらしい、なんとも言えない生活がひらけて、まあ嬉しい!と、思わず声をあげるのよ。そして、現在の不仕合せな暮らしを、なつかしく、ほほえましく振返って、私たちーほっと息がつけるんだわ。わたし、ほんとにそう思うの、伯父さん。心底から、燃えるように、焼けつくように、私そう思うの。・・・・・ほっと息がつけるんだわ!
  • ほっと息がつけるんだわ!その時、わたしたちの耳には、神様の御使たちの声がひびいて、空一面きらきらしたダイヤモンドでいっぱいになる。そして私たちの見ている前で、この世の中の悪いものがみんな、私たちの悩みも、苦しみも、残らずみんなー世界じゅうに満ちひろがる神様の大きなお慈悲のなかに、呑みこまれてしまうの。そこでやっと、私たちの生活は、まるでお母さまがやさしく撫でてくださるような、静かな、うっとりするような、ほんとに美しいものになるのだわ。私そう思うの、どうしてもそう思うの。・・・・・お気の毒なワーニャ伯父さん、いけないわ、泣いてらっしゃるのね。・・・・・あなたは一生涯、嬉しいことも楽しいことも、ついぞ知らずにいらしたのねえ。でも、もう少しよ、ワーニャ伯父さん、もう暫くの辛抱よ。・・・・・やがて、息がつけるんだわ。・・・・・ほっと息がつけるんだわ!

2021年度版医療福祉総合ガイドブック(NPO法人日本医療ソーシャルワーク研究会)

  • 社会問題、生活問題に対し、国が責任を果たすものが社会保障制度
  • 1950年社会保障制度審議会社会保障制度に関する勧告」:社会保障制度とは「疾病、負傷、分娩、廃疾、死亡、老齢、失業、多子その他困窮の原因に対し、保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ、生活困窮に陥った者に対しては、国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに、公衆衛生及び社会福祉の向上を図り、もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすること」
  • 1995年同審議会「社会保障体制の再構築(勧告)ー安心して暮らせる21世紀の社会をめざして」:「国民の自立と社会連帯」という新しい理念
  • 近年、この「95年勧告」の「自立と連帯」の名の下、国が責任を持つ社会保障制度から自助や共助を強調する「福祉社会」へと稀少化されてきています。
  • 社会保障制度は、社会保険を中心に、社会扶助、社会福祉、医療および公衆衛生という4つの柱・・・社会保障制度には含まれませんが、国民の生活を保障する制度としては、雇用対策や公営住宅制度等があります。
  • 一般会計歳出の構成(2020年度):社会保障35兆円(35%)→年金(38%)、医療(37%)、福祉(13%)、介護(10%)、雇用(0.1%)
  • 申請主義の原則
  • 生活が「苦しい」と感じている人・・・全世帯で54.4%(2019年)・・・高齢者世帯では51.7%・・・児童のいる世帯では60.4%・・・その「悩みや不安」は、「老後の生活設計」や「自分・家族の健康」「今後の収入・資産の見通し」
  • 職業生活においてストレスなどになる原因の第一位は、「職場の人間関係の問題」
  • 国は、日本社会の高齢化を見据え、住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けることができるよう、地域の支援・サービス提供体制「地域包括ケアシステム」の構築を提唱
  • 市町村が、子ども・子育て、生活困窮者自立支援、介護保険障害福祉等の分野や対象者を超えた一体の支援事業として「重層的支援体制」を整備するとしています。
  • 地域における人間関係、助け合いが希薄になるにつて、支援を必要とする人が社会的にますます孤立する状況・・・公的な支援機関が分野を超えて「丸ごと」、地域が「我が事」として、支え合う必要性が大きくなっています。しかし、「地域共生社会」構想が、公助・共助・自助の役割を壊して社会保障を後退させ、地域に肩代わりさせるものではないことをまずは明らかにしてほしいものです。

財政学の扉をひらく(高橋正幸・佐藤滋)

  • なぜ政府が財・サービスを提供するのか・・・「公共財の理論」・・・公共財とは政府の提供する財・サービスを意味・・・市場での値付けが適切な形で行われず、売り買いすることが困難な財・サービスに限って、政府が市場に代わって供給すべきだ
  • 私たちが財政を通じて公的に供給したほうが望ましいと判断しさえすれば、実はどんなものでも公共財になりえてしまう。・・・価値財
  • 日本では、公的教育支出の水準がきわめて低かったり、公的な住宅手当が十分な規模では存在してなかったり・・・低所得の労働者を支援するために・・・給付付き税額控除のような仕組みもない。これらは結果として、教育機会の不平等や貧困率の高さとなって現れているが、・・・何を公共財とするか・・・私たちが民主的な手続きを経て決めること
  • 人々の欲求を、生存あるいはより人間的な生活のために人々が集団的に求める「ニーズ」と、私的な生活の満足のために個々の人々が求める「欲望」とに区分した場合、財政の目的はニーズを無償で満たすことにあり、市場の目的は欲望を有償で満たすことにある。
  • 政府の支出と収入を定める予算を通じて、政府の活動に対して民主的な統制(コントロール)を図る・・・財政民主主義という。

 

  • 税の最も重要な特徴は、それが「強制性」と「無償性」・・・支払いに対して財やサービスの請求権がないという性質を、無償性と呼ぶ。
  • 成熟した民主主義国家では租税負担率が高い一方で、独裁国家や政治情勢が不安定な国では低くなっている・・・その背景には政府に対する信頼の程度が影響
  • 租税同委は政府への信頼だけでなく、社会にいる人々の間の信頼関係にも左右
  • 所得税・・・累進税率・・・利子・配当・譲渡所得には・・・15%・・・の分離課税・・・資産性の所得は、裕福な者に集中する傾向にある。そうした所得に対して所属税の最高税率よりもかなり低い税率が課されていることは、垂直的公平性の観点からたびたび問題視
  • 消費税・・・物税・・・低所得者ほど所得に占める税負担の割合が大きくなるという「逆進性」・・・消費税をなくしてしまうと、現役時に積み立てた所得を支出に充てて暮らす退職者は課税を免れる・・・現在のような少子高齢化が進展した時代においてはなおさら当てはまる・・・多くの税収を国庫にもたらすという利点・・・わずか1%の税率の引き上げで、2兆~3兆円程度の税収を得ることができる。
  • 日本の税負担は他国と比較してきわめて低い。・・・第2次世界大戦後一貫して減税対策を志向・・・所得税の減税→貯蓄の増大→企業による投資の拡大」という経路で経済成長が促され、それがより多くの税収を生み、さらなる減税を可能にするという好循環
  • 税=生活を貧しくするもの、と考えがち・・・財政の原理は「共同需要の共同充足」・・・ニーズを充足するための負担を、税という形で人々が分かち合っていることを意味している。負担の側面だけに着目してしまうと、人々の生活が公的にサポートされている点を見過ごすことになる。・・・負担は常に、給付と一体的に考える必要がある

 

  • 社会保障を不可欠の役割とする国家は、一般に福祉国家と呼ばれている。
  • 社会保険は、国民全員の強制加入を前提として、社会保険料をもとに運用される各種制度・・・疾病、介護、老齢、失業、業務災害などによる所得の中段・喪失に備えるための仕組みであり、日本では医療保険介護保険、年金保険、雇用保険労災保険が該当
  • 社会保険料・・・保険料負担と保険給付との間に(少なくとも部分的には)対価関係が存在している点が、税との違い・・・給付と負担とを関係づけているために、社会保険料の引き上げに対する同意を得やすいという特徴・・・日本では税負担がきわめて低いまま据え置かれたのにもかかわらず、社会保険料が急速に引き上げられた背景には、こうした社会保険の特質が関わっている
  • 社会保険料所得税とは異なって、所得再配分的な機能が弱い・・・不況が続くような局面では、社会保険料負担に耐えられない層が大量に出現
  • ヨーロッパ・・・社会保障財源の重点を社会保険料から税へと徐々に移行・・・低所得層には軽く、富裕層にはより重く負担をかけることができる。

 

  • 公債・・・歳出をどの程度、公債がまかなっているのか・・・公債依存度・・・2018年度・・・34.9%・・・公債を抜きに予算を組むことは不可能・・・第1に、日本の租税負担率が他国と比べて低いことが背景・・・第2に、歳出が一貫して増大・・・とくに1990年代以降
  • 財政法第4条第1項は、国の歳出は原則として公債や借入金以外の歳入をもってまかなうことを規定している。公債発行は同項の但し書により、例外的に認められているに過ぎない。これは、公債が最終的に税による償還(返済)が予定されており、あくまでも「税収の前取り」として位置付けられていることを意味・・・主として歳入を公債に依存する国家は、租税国家に対比して債務国家とも呼ばれる
  • 公債の購入が、人々の自発的な意思に委ねられている・・・増税を行う際には、何が公共財であるべきかについて社会的な合意を必要・・・国債の場合、増税に関わるこうした厄介さを回避することができるため、政府が国債発行を選択しようとする政治的な動機は十分にある。・・・他方で、公債の購入を強制できないということは、買い手が思うようにつかず、資金調達が十分にできない可能尾性があることも意味する。公債が信頼のおける投資対象として人々から認められていなければ、公債の価格が大きく下落することもありえないことではない。・・・財政法第5条・・・日銀引き受け)を禁止している。これは、日銀による制約のない公債購入→通貨流通量の大幅増→止めどもないインフレ、という形で経済を不安定にしてしまうおそれがあるためである。政府に慎重な財政運営が求められているのはこのため
  • 財政の硬直化・・・2017年度・・・国債費は・・・約23%
  • 公債費は債務不履行を選択しないかぎり、必ず支出しなければならない費目・・・義務的経費・・・予算を柔軟に編成することは困難
  • 公債残高を縮小させる政策は一般的に財政再建と呼ばれ、・・・プライマリーバランスの黒字化という目標
  • 財政破綻とは、「元利償還費の全部または一部の支払いが停止されたり、遅延されたりする状況」であり、いわゆる債務不履行のことを指す。
  • 日銀は現在、国債の大量保有を進めている。円をつくることができる日銀が国債の大量保有を進めているのであるから、返済資金が底をつくことがないという事実には変わりはない。・・・統合政府・・・財務状況を連結して把握・・・政府における借金=日銀における資産」となり、相互に打ち消しあう関係にあることがわかる。すなわち、日銀保有分の国債については、借金が返済できているのも同然という理解も成り立つ。したがって、統合政府ベースで考えると、自国通貨建ての借金については、返済を心配する必要がないという主張もありえる。
  • インフレが生じて貨幣価値が減少すれば、債務償還費は実質的な意味において目減り・・・国債に投資した者からみれば、債務不履行が生じていることと変わりがない。・・・1920年代におけるドイツ・・・インフレにより債務を償還した事例

 

 

  • 所得再配分とは、所得や富の分配の調整を行うという財政の役割のことで、その目的は人々のニーズの充足や経済的不平等の是正にある。・・・課税や給付(現金給付や対人社会サービス)を通じて、市場メカニズムがもたらす所得や富、あるいはニーズ充足手段の分配状況を再調整すること・・・教育や福祉サービスといった対人社会サービス(現物給付)の形での再分配も含まれる。
  • 経済成長→税収増→所得再分配の強化→中間層の拡大→需要拡大→生産拡大→経済成長
  • オイルショック・・・経済成長率の低下、失業率の上昇、物価の上昇・・・税収低下圧力と支出増加圧力に同時にさらされた・・・景気が悪化しているのに物価が高止まりする(スタグフレーション
  • 新自由主義(neoliberalism)の政策思想・・・社会保障支出や税負担の増加を経済成長の足かせとみなす立場・・・高い税や社会保険料によって、投資や労働の果実を企業(資本)や労働者の手から奪う。・・・企業や労働者が市場メカニズムのもとで投資や労働を最大化しようとする意欲を妨げる。・・・行政機構は市場競争にさらされないため、民間部門と比べて高コスト体質を有し、生産性が低い・・・福祉国家の発展は、・・・政治的な意思によるもの・・・特定の集団利益に影響・・・望ましくない財・サービスの配分・・・自由な消費者選択が作用しない・・・生産者(=政府)の利益が優先
  • 日本における経済成長・自己責任志向・・・公的な生活保障の軽視・・・自立・自助の意識・・・勤労の美化や自己責任の強調
  • 財政という私たちの「共同の財布」にどのようにお金を預け(税・社会保険料のあり方)、私たちの生活をどう支え合えば(社会保障、その他政策・制度のあり方)、持続可能な経済成長と所得再配分によるニーズの充足が可能となり、私たち皆が「生きるに値する」と思える社会をつくれるのか。それは私たちの選択の問題である。・・・この問いに真摯に向き合ってこなかった結果が、いま私たちの眼前に漂う閉塞感なのではなかろうか。
  • 経済成長や自己責任への執着を反省し、誰もがニーズを満たされ人間的な生活を保障されるための支え合いの財政、所得再分配のシステムを本気で模索すべき

 

  • 終身雇用・年功賃金・企業別組合の3つの柱からなる日本型雇用と呼ばれる雇用慣行が、日本人の生活の安定に大きく寄与してきた・・・失業率が高くなると、自殺率も高くなる・・・高い相関関係が認められ
  • 近年・・・失業状態になくとも不安定な生活を強いられる人々・・・働きながらも貧困状態にあるワーキングプア・・・1985年労働者派遣法・・・雇用形態の非正規化
  • 日本企業は・・・競争力維持のために生産性を改善するよりも、主に賃金の引き下げを行ってきた。・・・賃金の引き下げが人々の消費する力を弱め、経済全体を不況に陥れてしまう
  • 所得再分配政策・・・負い目の感情(「スティグマ」・・・所得税が戦後ほぼ一貫して減税基調・・・所得税の累進性は非常に弱くなってしまっている。・・・逆進性を持つ消費税が増税基調にあり、低所得層の負担が増大・・・日本の所得保障制度はきわめて脆弱であり、現役層の支えとなっていない。
  • ベーシックインカム
  • 負の所得税
  • 給付付き税額控除・・・所得控除を税額控除への置き換える。ただし、税額控除前の税額がゼロの世帯では・・・減税分として使いきれなかった税額控除・・・については現金を給付する。

 

  • 「税の負担は小さいが、自力で医療・介護・子育て・教育などの費用をまかなわねばならない自己責任社会」と、「税の負担は大きいが、それらの基礎的なニーズは必ず満たされる支え合いの社会」の、どちらを選択するかを決めること

 

  • かつて地方自治体の歳出の多くを占めていたのが公共事業であり、近年は対人社会サービスの歳出がそれに取って代わっている
  • 主に大都市部で生まれる経済成長の果実の一部を税収という形で吸い上げて、地方都市や農山漁村に公共事業補助金という形で再分配した。
  • 対人社会サービスの分野は、全国的に最低水準のサービス(ナショナルミニマム)を確保することに重きをおくべき状況にあった。

 

  • 欧州統合やグローバル化を推し進め、そこから恩恵を受ける人々を「エリート」として敵視し、「大衆」の利害を積極的に擁護しようとする。・・・ポピュリズム政党・・・反移民を掲げる政党は右派ポピュリズム政党・・・グローバル化の影響から自国民を保護するために福祉国家を支持する一方で、移民については受給権からの排除をもくろむ福祉排外主義と呼ばれる立場
  • グローバル公共財・・・環境の保全や知識の利活用・・・平和の維持、金融の安定化、貧困問題の解決など・・・グローバルタックス

 

  • 財政が私たちのニーズを満たすためには、財源が必要・・・強制性と無償性を特徴とする税の負担に人々が同意できる状況を作り出すのは、政府への信頼と社会的信頼(人々同士の信頼)である。しかし、日本ではまさにこれら2つの信頼が低い
  • 政府への信頼を損ねている一因が財政がニーズを適切に満たしていない現状にあり、人々同士の信頼の低さが自己責任意識の強さと密接に関係していることは、明らかであろう。政府にお金を委ねることも、他者のために自分のお金が使われることも嫌われる社会において、「共同の財布」は成立しようがない。私たちのニーズを満たすために、これまでより多くの財源が必要とされていく今後の日本において、これは重大な問題である
  • 増税によって公共サービスが充実し、より良くニーズが満たされていく」という経験の欠如・・・租税負担への同意を妨げている・・・増税=負担増=悪・・・負担と給付(受益)とを一体的に問う観点も、著しく弱められることとなった
  • ニーズを満たすという財政本来の使命が、財政赤字を改善するという目的に従属・・・増税を忌避するあまり、際限なき公債発行が可能であるかのような主張・・・その主張の当否が十分に明らかではない以上、財政運営には一定の節度が求められる。少なくとも生存そして人間的な生活の保障に直接関わる社会保障給付のような経費については、税で確実に財源を確保することが不可欠だと考えるべき