第三次世界大戦はもう始まっている(エマニュエル・トッド)

  • 冷戦後、NATOは東方に拡大・・・ポーランドハンガリーチェコが加盟した1999年と、ルーマニアブルガリアスロバキアスロベニアエストニアラトビアリトアニアが加盟した2004年です。
  • ドイツ統一が決まった1990年の時点で、「NATOは東方に拡大しない」といった”約束”がソ連に対してなされていたが、にもかかわらず、ロシアは不快感を示しながら二度にわたるNATOの東方拡大を受け入れたのです。
  • 2008年4月のブカレストでのNATO首脳会議で、「ジョージアウクライナを将来的にNATOに組み込む」ことが宣言されました。
  • ロシアにとって超えてはならないレッドライン
  • 2014年2月22日、ウクライナで、「ユーロマイダン革命」と呼ばれる「クーデタ」———民主主義的手続きによらずに親EU派によってヤヌコビッチ政権が倒される―――が発生しました。これを受けて、ロシアはクリミアを編入し、親露派が東部ドンバス地方を実効支配しましたが、それは住民の大部分が、この「クーデタ」を認めなかったからです。
  • アメリカとイギリスが、高性能の兵器を大量に送り、軍事顧問団も派遣して、ウクライナを「武装化」していたからです。「ウクライナをすぐにNATOの一部にするとは誰も言っていない」というレトリックを用いながら、ウクライナを「武装化」し、”事実上”NATOに組み入れていたわけです。
  • ロシアが看過できなかったのは、この「武装化」がクリミアとドンバス地方の奪還を目指すものだったからです。
  • つまり、軍事上、今回のロシアの侵攻の目的は、何よりも日増しに強くなるウクライナ軍を手遅れになる前に破壊することにあったわけです。
  • マリウポリの街が”見せしめ”のように攻撃されているのには理由があります。・・・ネオナチの極右勢力「アゾフ大隊」の発祥地だからです。ロシアが言っていることに我々は耳を傾けなければなりません。「非ナチ化」とは、このアゾフ大隊を叩き潰すという意味です。
  • 「広義のロシア」すなわち「スラブ」の核心部は、ロシア(大ロシア)、ベラルーシ白ロシア)、ウクライナ(小ロシア)からなりますが、ベラルーシウクライナの分離独立、すなわち「広義のロシア」の核心部が分裂することまで受け入れたのです。ちなみにソ連邦が成立した1922年以前に、ウクライナも、ベラルーシも「国家」として存在したことは一度もありません。
  • 冷戦後のロシアは、「西側との共存」を目指しました。けれどもロシア人はすぐに裏切られたのです。・・・ロシアの経済と国家を破綻させただけでした。
  • さらにアメリカは「NATOは東方に拡大しない」と言っていたのに、・・・結局、ロシアを軍事的にも囲い込んでしまいました。
  • アメリカの目的は、ウクライナNATOの事実上の加盟国とし、ロシアをアメリカには対抗できない従属的な地位に追いやることでした。それに対してロシアの目的は、アメリカの目論見を阻止し、アメリカに対抗しうる大国としての地位を維持することでした。
  • ロシアは人口規模は日本と同程度・・・今の状況は、「強いロシアが弱いウクライナを攻撃している」と見ることができますが、地政学的により大きく捉えれば、「弱いロシアが強いアメリカを攻撃している」と見ることもできます。
  • アメリカは、第二次世界大戦後も、常に戦争をしてきた国です。・・・ヨーロッパ人と違って、アメリカ人にとっては、「他国を侵略することも普通のことだ」と考える基盤があるのです。・・・アフガニスタンにしろ、イラクにしろ、シリアにしろ、アメリカがこれまで行ってきた戦争は、弱小国に対する戦争でした。それに対して、今回、大国のロシアが、事実上、アメリカを敵に回しているわけです。
  • アメリカの専売特許」だった他国への侵攻をロシアが行った
  • ロシアは「共同体家族」(結婚後も親と同居、親子関係は権威主義的、兄弟関係は平等)の社会で、ウクライナは「核家族」(結婚後は親から独立)の社会です。
  • ロシア・・・平等概念を重んじる秩序だった権威主義的な社会で、集団行動を得意とします。こうした文化が共産主義を受け入れ、現在のプーチン大統領が率いる「ロシアの権威的民主主義」の土台となっているわけです。
  • 西側メディアが「戦争を引き起こした狂った独裁者」としてプーチン一人を名指しして糾弾するのは端的に言えば間違っています。・・・ロシア社会自身が、彼のような権威主義的な指導者を求めているからです。
  • 問題は、ウクライナに「国家」が存在しないことです。ウクライナ核家族構造が生み出したのは、「民主主義国」ではなく「無政府状態」だったのです。
  • 「西部」に、リヴィウを含む地域・・・ロシアからは、”ほぼポーランド”とみなされている地域・・・キエフ(キーウ)・・・「中部」には、「小ロシア」と呼ばれる地域が広がっています。ここが言わば”真のウクライナ”で、核家族構造が見られます。・・・黒海沿岸地域とドンバス地方からなる「南部・東部」は、プーチンが歴史に倣って「ノヴォロシア(新ロシア)」と呼んでいる地域です。・・・三つの地域はあまりに異なっており、ソ連が成立するまで、「ウクライナ」は、「国家」として存在していなかったのです。
  • 予測可能な国と予測不能な国・・・ロシアは一定の戦略的合理性に基づいて行動しています。・・・予測不能な国は、まずウクライナです。・・・軍事力や人口規模から見て、非合理的で無謀な試みだと言わざるを得ません。そもそも、この国は軍が仕切っているのか、大統領が率いているのか、分からないところがあります。

 

  • この戦争は、「ウクライナの中立化」という当初からのロシアの要請を西側が受け入れていれば、容易に避けることができた戦争でした。
  • ロシアは、戦争前にすでに安定に向かっていました。自国の国境保全に関してロシアを安心させていれば、何事も起こらなかったはずです。
  • 本来なら避けられたはずの戦争が始まってしまい、ウクライナの市民が虐殺される事態に陥っているのは、あまりに不条理です。